和歌山地方裁判所 昭和42年(む)20号 決定 1967年2月07日
被疑者 岩橋紀夫
決 定 <申立人氏名略>
被疑者岩橋紀夫に対する公職選挙法違反被疑事件について、和歌山地方裁判所裁判官安倍晴彦が昭和四二年二月二日なした勾留に対し、右申立人から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件請求を棄却する。
理由
一、本件準抗告申立の趣旨および理由は、別紙準抗告申立書記載のとおりである。
二、先ず本件準抗告申立の適法性について考えてみるに、勾留場所のいかんは、被疑者の年令(少年法四八条二項、四九条三項参照)、健康状態等の点からも、また捜査の遂行ならびに被疑者の防禦権の行使等の点からも勾留裁判の重要な内容であつてこれについて不服があるものは刑事訴訟法四二九条一項二号に基づいて準抗告の申立をすることができるものと解しなければならない。
三、さて本件記録によると、和歌山地方裁判所裁判官安倍晴彦は昭和四二年二月二日本件被疑事件につき罪証隠滅のおそれがあることを理由に勾留すべき監獄を「丸の内拘置支所」と定めて被疑者を勾留する旨の裁判をしたことは明らかである。
ところで刑事訴訟法二〇七条、六〇条一項二号が罪証隠滅のおそれを勾留の理由として掲げている趣旨は、被疑者が将来関係人と通謀して虚偽の供述をさせあるいは物的証拠の滅却をはかる等の積極的な行動を防止するため、これを一定の場所に隔離することにあつて、申立人所論のように専ら捜査の便宜をはかるためでないといわねばならない。かようにして勾留場所は本来拘置監とされるべきものであり、このことは監獄法一条一項四号、三項の文理ならびに刑事訴訟規則一四七条が勾留請求書に勾留すべき場所の記載を要件としていないことからも窺知ることができる。従つて勾留場所をいわゆる代用監獄とするのは特段の事情がある例外的な場合であるといりべきである。
四、そこで、以下記録に基づき本件について勾留場所を代用監獄たる和歌山西警察署とすべき特段の事情があるかどうかについて検討する。
被疑者は本件被疑事実を否認しており、そのために申立人の主張するように被疑者の弁解をききながら、関係者の取調を進め、また関係者の供述に対応して更に被疑者の供述を求めなければならないことも予想され、その場合には捜査官がその都度拘置監に赴いて被疑者の取調べをしなければならないことになるが、右事実によつては多少の不便を免れないとしても捜査が不可能または著しく困難になるということはできない。
次に、申立人の主張する余罪については、これを認める疎明資料が存在しないばかりでなく、仮に余罪を取調べる必要があるとしても、それは本来勾留事実についてみとめられた身柄拘束状態を利用してその取調をすることができるに過ぎないと考えるべきであるから、余罪取調べのために例外的な代用監獄を勾留場所とすることは寧ろ本末転倒である。
右のとおりであるから、本件においては勾留場所を代用監獄たる和歌山西警察署とすべき特段の事情は認めることができない。
五、従つて、本件請求は、その理由がないので棄却することとし刑事訴訟法四三二条、四二六条一項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 五味逸郎 沢田脩 清水元子)
別紙準抗告申立書<省略>